1. さまざまなプラスチック製品
プラスチックの定義は、原料(ポリマー)や配合剤を含んだ成形材料を示すことが一般的です。プラスチックまたは樹脂と呼ばれます。プラスチックには非常にたくさんの種類があり、製品に求められる機能や性能に合わせて、適切なものが選定されます。まずは私たちの身の回りに、どのようなプラスチック製品があるか(表1)、どんなプラスチックの種類があるか(表2)を見てみましょう。
使用例 ※カッコ内の使用材料は代表的なもの | |
日用品 | バケツ(PP)、玩具(PP)、シャンプーボトル(PE)、レジ袋(PE)、灯油タンク(PE)、デスクマット(PVC)、使い捨てスプーン(PS)、スーツケース(ABS)、透明ケース(PMMA)、フライパン表面(PTFE)、哺乳瓶(PPSU) |
食品 | 子供用食器(PP)、タッパー(PP)、レトルトパウチ(PPなど多層)、食品容器(PE)、食品包装用フィルム(PE)、インスタントラーメン容器(発泡PS)、食品製造機械用軸受(POM)、飲料水容器(PET)、卵パック(PET) |
住宅・建材 | 便座(PP)、給水管(PE)、排水管(PVC)、床タイル(PVC)、床シート(PVC)、樹脂サッシ(PVC)、断熱材(発泡PS)、波板(PC)、エコキュート減圧弁(PPS)、浴槽(GFRP)、キッチン建具面材(MF) |
電気製品 | コード被覆材(PVC)、冷蔵庫収納トレイ(PS)、家電筐体(ABS)、照明カバー(PMMA)、メーターカバー(PMMA)、プラスチック歯車(POM)、コンパクトディスク(PC)、プリンターシャーシ(m-PPE)、封止材(EP) |
自動車 | バンパー(PP)、衝撃吸収材(発泡PP)、インストルメントパネル(PP)、燃料タンク(PE)、エンジンカバー(PA)、インテークマニホールド(PA)、ヘッドランプレンズ(PC)、ワイヤーハーネスコネクタ(PBT)、ドアシール材(TPO) |
その他 | 注射器(PP)、人工芝(PE)、漁網(PE)、カテーテル(PVC)、農業用フィルム(PVC)、緩衝材(発泡PS)、光ファイバー(PMMA)、結束バンド(PA)、風力発電ブレード(GFRP)、航空機主翼(CFRP)、釣竿(CFRP) |
熱可塑性 プラスチック |
汎用プラスチック | PP:ポロプロピレン、PE:ポリエチレン、PVC:ポリ塩化ビニル、PS:ポリスチレン、ABS:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、PMMA:メタクリル樹脂(アクリル) |
エンジニアリングプラスチック | PA:ポリアミド(商品名:ナイロン)、POM:ポリアセタール、PET:ポリエチレンテレフタレート、PBT:ポリブチレンテレフタレート、PC:ポリカーボネート、PPS:ポリフェニレンサルファイド、PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(商品名:テフロン)、PPSU:ポリフェニルサルホン、m-PPE:変性ポリフェニレンエーテル | |
その他 | TPO:オレフィン系熱可塑性エラストマー | |
熱硬化性 プラスチック |
GFRP:ガラス繊維強化プラスチック、CFRP:炭素繊維強化プラスチック、MF:メラミン樹脂、EP:エポキシ樹脂 |
実にたくさんのプラスチック製品があることが分かります。乳幼児から高齢者に至るまで、プラスチックと無縁で生活できる人は存在しないといっても過言ではないでしょう。皆さんも、身の回りにどのようなプラスチック製品があるかをチェックしてみてください。思った以上にたくさんあるはずです。
2. プラスチックを使うメリットとデメリット
これほどプラスチックが使われるようになったのは、プラスチックを利用する側にも、製造する側にも、非常に大きなメリットがあるからです。プラスチックを使うメリットは、製品により違います。表3に、代表的なプラスチックを使うメリットを示します。
メリット | 例 |
複雑な形状の製品を効率よく生産できる | 強度UPのための複雑なリブ構造 |
軽い | 低比重のPPによる自動車部品の軽量化 |
断熱性が高い | 住宅の断熱材 |
腐食しない | 排水管 |
意匠性の付与が容易 | 材料自体の着色 |
電気絶縁性がある | 電気製品用部品 |
薬品・油に強い(種類による) | 薬品容器 |
特に「複雑な形状の製品を効率よく生産できる」というのは、最も大きなメリットの一つでしょう。例えば、家電や自動車部品といった複雑な形状の製品を、プラスチックを使わずに作るには、何倍もの費用がかかります。また、プラスチックであればほぼ自動で作ることができるバケツのような製品も、プラスチック以外の素材で作ると、多くの加工工程が必要になります。
一方で、プラスチックには、いくつかのデメリットもあります。それらをよく理解しないまま使ったために、手痛い失敗を経験した人もいるのではないでしょうか。表4に、代表的なプラスチックを使うデメリットを示します。
デメリット | 例 |
環境条件による性能低下 | 高温下での強度低下 |
製造条件による性能低下 | 成形不良による強度低下 |
経年劣化の程度が大きい | 熱劣化による強度低下 |
可燃性 | 基板のトラッキングによる火災 |
環境への影響 | マイクロプラスチック(微細な海洋ゴミ) |
帯電(電気絶縁性が高いため) | 静電気による汚れ |
薬品・油に弱い(種類による) | ソルベントクラック(薬品割れ)の発生 |
最も注意しなければならない特性の一つが、各種条件によって材料の性能が変化することです。金属のように性能が安定している材料と同じと考えて、プラスチックを使ってしまうと、市場からクレームとなって返ってくるでしょう。
私が長年所属していた住宅設備業界では、プラスチックのメリット(表3)に着目し、多くの製品がプラスチックで作られるようになりました。プラスチック化が進んでからかなりの年月が経過しているため、相当な知識が蓄積されているものの、現在でも多くの問題が発生しています。決して手を抜いているわけではなく、性能向上やコストダウンなど新しいことを進める中で、プラスチックの表4のような特性を見誤ってしまうのです。プラスチックは、意外にも取り扱いが難しいことを頭に入れておきましょう。
3. プラスチック製品を作るには
プラスチック製品を作るには、複数の技術分野の全体像を理解しておくことが必要です(図1)。
それぞれの技術分野は、お互いに深く関係し合っています。例えば、成形法が決まらなければ形状(設計)が決められず、形状が決まらなければ成形法も決まりません。また、形状が決まらなければ、どのような二次加工をするのかも決められません。まさに「ニワトリが先か、卵が先か」の世界です。同じ製品であれば材料や成形法が同じと考えていませんか? 文房具店でプラスチック製の定規を見てください。全て同じように見えても、製品ごとに、材料、成形法、二次加工が異なっています。求められるQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期の略)により、適用すべき技術が違います。これが全体像を理解しなければならない理由です。
参考文献
・社団法人プラスチック成形加工学会編、図解プラスチック成形材料、森北出版、2011年