1. プラスチック材料の特性
製品の材料としてプラスチックを使う場合、製品の要求事項を明らかにし、それを満足する特性を持ったプラスチックを選ぶ必要があります。表1に、プラスチックを選ぶ際に指標となる特性を示します。
特性 | |
機械特性 | 強度、剛性、重量(軽量性)、耐クリープ性、耐疲労性、耐衝撃性、耐水性、耐熱水性、耐蒸気性、吸水性、柔軟性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、耐傷性、表面硬度、耐突き刺し性、ヒンジ特性 |
熱特性 | 耐熱性、寸法安定性、熱伝導、各物性の温度依存性 |
電気特性 | 電気絶縁性、耐トラッキング性、耐アーク性 |
化学特性 | 耐薬品性、耐油性、耐候性、難燃性、ガスバリア性、低アウトガス性 |
光学特性 | 透明性、屈折率制御性 |
成形性 | 各成形法に適した材料特性、賦形性、寸法安定性 |
二次加工性 | 溶着、接着、溶接、印刷、塗装、めっき、蒸着、機械加工 |
その他 | 環境性、衛生性、意匠性、経済性 |
これらの特性は、プラスチックを構成する物質によって決まります。プラスチックは主に、原料(ポリマー)と配合剤で構成されています。原料は、ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)などの高分子(ポリマー)で、プラスチックの大部分を構成します。同じ原料でもグレードによって性能に幅があります。配合剤は、ガラス繊維や着色剤など、プラスチック性能の向上や、新たな特性を付与する目的で加えられます。図1に、プラスチックの強度における性能変化のイメージを示します。低コストでプラスチック製品を作るには、原料だけでなく配合剤の知識も不可欠です。
2. プラスチック原料(ポリマー)
プラスチック材料は、その構造や性質によって、図2のように分類できます。
最も大きな分類は、熱硬化性プラスチックと熱可塑性プラスチックです。表2に、それぞれの特徴を示します。
熱可塑性プラスチック | 熱硬化性プラスチック | |
特徴 |
・成形工程で、化学反応を起こさない ・加熱すると軟化し、冷却すると再び硬化する(※チョコレートをイメージ) |
・成形工程で、化学反応により硬化する ・硬化後、加熱しても軟化しない (※クッキーをイメージ) |
メリット | ・成形時間が短く、低コスト ・リサイクルに適している | ・機械特性、化学特性などが優れている |
デメリット | ・機械特性、化学特性などが劣る | ・成形時間が長く、高コスト ・リサイクルに適していない |
熱硬化性プラスチックは、機械特性や化学特性などに優れています。しかし、成形時に化学反応が必要で成形時間が長く、コストが高いというデメリットがあります。そのため、熱可塑性プラスチックでは対応が難しく、要求性能が特別に高い場合に限り使用されています。表3に、代表的な熱硬化性プラスチックの種類と特性を示します。
略号 | 名称 | 重視される特性の例 | 用途例 |
EP | エポキシ樹脂 | 強度、耐熱性、電気特性 | 塗料、半導体封止材、航空機構造材 |
PF | フェノール樹脂 | 耐熱性、電気特性、難燃性 | ブレーキ摩擦材、電気・電子機器、調理機器 |
UF | ユリア樹脂 | 表面硬度、電気特性、耐薬品性 | 接着剤、配線器具、日用品 |
MF | メラミン樹脂 | 表面硬度、電気特性、耐薬品性 | 接着剤、食器、化粧板 |
UP | 不飽和ポリエステル樹脂 | 強度、耐熱性、耐薬品性 | 浴槽、人工大理石、レジャーボート |
SI | シリコーン樹脂 | 柔軟性、衛生性、耐候性 | 建築用シーリング材、チューブ、パッキン |
PUR | ポリウレタン樹脂 | 耐摩耗性、柔軟性、耐油性 | クッション材、断熱材、車輪 |
一方、私たちの身の回りにあるプラスチックの多くは、熱可塑性プラスチックです。中でも汎用プラスチックは生産量が多く安価なため、日用品から自動車部品までさまざまな製品に使用されています。国内生産量では7割以上を汎用プラスチックが占めています。表4に、汎用プラスチックの種類と特性を示します。
略号 | 名称 | 結晶構造 | 重視される特性の例 | 用途例 |
PE | ポリエチレン | 結晶性 | 耐水性、衛生性、低価格 | 包装用フィルム、容器、日用品 |
PP | ポリプロピレン | 軽量性、ヒンジ特性、低価格 | 包装用フィルム、自動車外装部品、日用品 | |
PVC | ポリ塩化ビニル | 非晶性 | 難燃性、柔軟性、電気特性 | 給排水管、電線被覆材、各種シート |
PS | ポリスチレン | 透明性、衛生性、低価格 | 透明ケース、保温容器、日用品 | |
PMMA | ポリメタクリル酸メチル(アクリル/メタクリル樹脂) | 透明性、表面硬度、意匠性 | 透明ケース、照明器具、看板 | |
ABS | アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン | 意匠性、めっき加工性、寸法安定性 | 自動車内装部品、家電、日用品 |
汎用プラスチックで要求性能を満足できない場合には、エンジニアリングプラスチックが使用されます。エンジニアリングプラスチックは、耐熱性などの違いにより、汎用エンジニアリングプラスチック(耐熱性100℃以上)と、スーパーエンジニアリングプラスチック(耐熱性150℃以上)に分けられます。いずれも要求性能の高い部位で使用されます。ただし、生産量が少ないためコストが非常に高いのがネックです。
著者:田口技術士事務所 田口 宏之