圧延鋼板は一般用途の鉄系板材として非常によく使われる材料です。圧延鋼板は、圧延の中でも鋼を圧延して板状に加工されたものを言います。圧延鋼板は圧延の温度により2種類に大別され、熱間圧延を行ったものは熱間圧延鋼板(SPHC)、冷間圧延を行ったものは冷間圧延鋼板(SPCC)と呼ばれています。大まかな使い分けとしては、価格を抑えたい場合にはSPHCを選び、薄く、精度が高いものを作りたいときにはSPCCを選ぶイメージになります。熱延鋼板はいわゆる黒皮材で価格面において優れており、冷間圧延鋼板は柔らか く成形性や加工性に富み、絞りなどの加工にも適した素材です。その為、高い寸法精度が必要とされる場合には冷延鋼板を使用します。また、冷延鋼板は板厚精度が高く、表面が美麗かつ平滑でプレス成形性にも優れているということから、自動車・家電・建材などの幅広い分野で使用される最も需要の高い鋼板とも言えます。
圧延鋼板の特徴
圧延鋼板とは、名前の通り「圧延」によって作られた「鋼」の「板」です。比較的安価で、曲げ加工に適しているのが特徴です。板状の材料であるため、プレスや板金加工に適しており、機械の強度を担わない外装やカバーなどに多く使われます。圧延は加工する温度によって大きく2つに分けられます。熱間圧延と冷間圧延です。
特徴
熱間圧延 | 冷間圧延 | |
加工温度 | 900℃~1,200℃ | 常温 |
加工性 | ◯ | △ |
寸法精度 | △ | ◯ |
表面 | 酸化皮膜 | 滑らか |
加工後熱処理 | 不要 | 要 |
熱間圧延
熱間圧延とは、再結晶温度よりも高い温度で加工する方法です。圧延鋼材のような鉄系材料の場合、900℃~1,200℃で加工するのが一般的です。
メリット | デメリット |
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冷間圧延
冷間圧延とは、室温や常温の環境下で金属を圧延加工する方法です。常温での加工とはいえ、加工時に発生する熱による温度の上昇はあるため、加工される金属も常温であるという意味ではありません。600℃以下が目安です。
メリット | デメリット |
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圧延鋼板の種類
熱間圧延鋼板 | 冷間圧延鋼板 | ||||
SPHC | 一般用 | 熱延鋼板の中で最も多く使用されており、主として平板や曲げ加工品に用いられる。 | SPCC | 一般用 | 抜き及び曲げ加工や浅い絞り加工に適した鋼板で、加工度の少ない単純な形状の部品に使用される。 |
SPHD | 絞り用 | SPHEに次いで絞り加工性に優れた鋼板。 | SPCD | 絞り用 | SPCEに次いで絞り加工性に優れた鋼板。 |
SPHE | 深絞り用 | 材質が均一で深絞り加工に適している鋼板。 | SPCE | 深絞り用 | 深絞り性に優れた鋼板で、冶金学的に結晶粒を調整しているため、絞り加工後も綺麗な表面が保たれる。 |
SPHCとSPCC特徴・性質について
圧延鋼板の中でも一般的なSPHC(熱間圧延鋼板)とSPCC(冷間圧延鋼板)の特徴や用途などについて説明します。
SPHCとSPCCの機械的性質
材料 | 引張強さ (N/mm2) |
伸び(%) | |||||
板厚 1.2mm以上 1.6mm未満 |
板厚 1.6mm以上 2.0mm未満 |
板厚 2.0mm以上 2.5mm未満 |
板厚 2.5mm以上 3.2mm未満 |
板厚 3.2mm以上 4.0mm未満 |
板厚 4.0mm以上 |
||
SPHC | 270以上 | 27以上 | 29以上 | 29以上 | 29以上 | 31以上 | 31以上 |
材料 | 引張強さ (N/mm2) |
伸び(%) | ||||||
板厚 0.25mm以上 0.30mm未満 |
板厚 0.30mm以上 0.40mm未満 |
板厚 0.40mm以上 0.60mm未満 |
板厚 0.60mm以上 1.0mm未満 |
板厚 1.0mm以上 1.6mm未満 |
板厚 1.6mm以上 2.5mm未満 |
板厚 2.5mm以上 |
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SPCC | 270以上 | 28以上 | 31以上 | 34以上 | 36以上 | 37以上 | 38以上 | 39以上 |
作り方によるSPHCとSPCCの違い
SPCCはSPHCから生まれます。SPHCはドロドロに溶かした材料を、ローラーで上下から挟んで伸ばして制作します。SPCCの場合はSPHCをローラーに挟んで伸ばして出来上がるものになります。S=Steelは鉄、P=Plateは板、H=Hotは 熱間圧延、C=Commercialは商用を意味し、鉄に熱と圧力をかけて板状に伸ばした流通品をSPHCと言います。SPCCの場合、C=Coldは冷間圧延を意味しており、SPHCに圧力をかけて板状に伸ばした流通品をSPCCと呼びます。因みに作り方として、ローラーでの圧力は同じようにかけるので熱をかけて溶かすか溶かさないかが大きな違いになります。SPCCは、基本的にSPHCを薄く伸ばして作るので、設定されている板厚はSPHC>SPCCとなります。また、熱をかけるか熱をかけないかの違いは表面の出来上がりです。SPHC(熱間圧延)の場合、表面にザラツキがあり、SPCC(冷間圧延)の場合、ある程度慣らした面をローラーでの加圧するため、面に精度が出ます。その為、加工品も精度を求めた製品の作成が可能になり、精度を求める場合はSPCCが選ばれます。
SPHCとSPCCのコストについて
このようにSPCCは、SPHCに再度加圧して作られるのでSPHCに比べて工程が一つ多いです。その為、価格にして2割~3割程度は上がります。SPC材はSPH材(JIS G3131「熱間圧延軟鋼板及び鋼帯」に規定されている)を冷間圧延して作られています。製鋼工程でできた鋼を熱して、上下からローラーで挟んで圧延(熱間圧延)し成形した鋼材がSPH材であり、更に酸洗い等を行い常温で圧延(冷間圧延)して成形した鋼材がSPC材です。SPC材は、上記の通りSPH材を冷間圧延で再度加工しているので、黒皮が無く、表面は滑らかで美しい仕上がりになります。また、圧延しているので厚さの精度が良いといった特徴がありますが、コストの面ではSPH材を再度加工しているのでSPH材よりも少し値段が高くなります。
熱間圧延された鋼板。SPHCとは?
特徴
SPHC(steel plate hot commercial)は熱間圧延鋼板と呼ばれます。省略してHOT材とも呼ばれます。名前の通り、熱間圧延によって作られた鋼板です。常温で圧延するSPCCと違い、SPHCは高温で圧延しており、黒皮と呼ばれる酸化被膜を形成しています。黒皮はSPHCを腐食やキズから守ってくれますが、塗装やメッキほどの信頼性は持ちません。SPCCより精度は低いですが、圧延鋼板の汎用材であるため比較的安価で、曲げ加工に適しているのが特徴です。機械構造用ではなく一般用に分類されている材料のため、構造用鋼であるSS400などに比べて強度は低くなります。
用途
SPHCは機械構造用ではなく一般用に分類されています。そのため構造体の強度を担うような場所にはあまり使われません。強度保証のない素材であるため、安全性や信頼性に関わる部位での使用は避けたほうがいいでしょう。一方で、曲げ加工のしやすさなどから、車のボディや電気機器の筐体などに広く使われています。比較的安価な材料であるため、外装やカバーなど、大きなパーツを作るのに適しています。
加工方法
柔らかい板状の素材のため、曲げ加工に向いています。切削などの除去加工も可能ですが、板金加工でのレーザーカットやプレスカットのほうが多い。
表面処理
SPHCは基本的に塗装などの表面処理を行ってから使用されます。黒皮(スケール)に覆われた状態では塗装性があまりよくないため、スケールを除去してから塗装されるのが一般的な処理です。スケールを除去する方法はさまざまですが、酸洗(さんせん)処理という、酸を使用した方法がよく知られています。SPHCの中でも酸洗処理が済んだ素材をSPHC-Pと表記します。
メリットデメリット
SPHCは広く流通している汎用素材で、入手しやすいく、同じ圧延鋼板の仲間である冷間圧延鋼板と比較しても安価です。柔らかい素材で加工にも適しており、特に板金加工やプレス加工などの曲げ加工に向いているのが特徴です。あまり強度を必要としない、電気機器の筐体などに向いている素材です。しかし、材料の引っ張り強度はあまり高くないため、構造用鋼ではなく、一般用に分類されています。強度を必要とする機械や構造物の強度部材にはあまり向いていません。また、熱間圧延した際に発生したスケール(黒皮)に覆われているため、あまり美しい見た目ではありません。外装に使う際には塗装したり、他の材料を使用したりします。場合によっては見える部分に表面が良いSPCCを、見えない部分はSPHCを使うことも多くあります。
メリット | デメリット |
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冷間圧延された鋼板。SPCCとは?
特徴
SPCC(Steel Plate Cold Commercial)は冷間圧延鋼板と呼ばれ、「ミガキ材・ミガキ鋼板」などと呼ばれることもあります。冷間圧延工程(常温での圧延)によって製造されているため、HOT材(SPHC)と違い表面に光沢があります。また、SPHC(熱間圧延鋼板)を酸洗し、冷間圧延して作るため、基本的にSPHCよりも薄い材料になります。主に薄物の板金部品に使用されており、滑らかで光沢のある表面をしています。柔らか く成形性や加工性に富み、絞りなどの加工にも適した素材です。しかし、SPHCをさまた他の素材に比べれば比較的安価ではあるものの、SPHCに比べるとコストも上がります。ステンレス系の薄板よりも安価ですが、表面の皮膜がないため錆びやすく、油が塗布された状態で流通しています。加工後はメッキや塗装などの表面処理が欠かせません。
用途
SPCCの引張り強さはSPHCと差はありません。しかしSPHCよりも薄い素材が多いため、構造用部材には向かない素材です。ワッシャーのような薄い部品の材料の他、自動車のボディ、建材などに多く使われています。鉄製の薄いカバーのイメージが強いかもしれません。
加工方法
鋼板なので加工は切断、曲げ、溶接が主な加工方法で、切削加工の場合はは穴あけ、ネジ加工に限られます。
- 曲げ加工、絞り加工 薄くて柔らかい板状の素材ですので、曲げや絞りなどの加工に向いています。加工性がいいため、さまざまな加工ができる素材でもあります。ただし、深絞り加工が必要な場合はSPCD(絞り用)材の方が適しております。
- レーザー加工 薄い鉄鋼なのでレーザー加工に適しております。
- 溶接 炭素量も少なく、溶接に適しております。
表面処理
SPCCは基本的に表面処理が必要な素材です。素材のままでは非常に錆びやすいため、塗装やメッキなどの防錆処理を施して使用します。滑らかな表面を持っているため、加飾性もよく、塗装やメッキなどにより非常に美しい外観を得られます。
- 塗装、めっき
SPCCの表面は光沢があり見栄えはいいですが、表面の油分が無くなるとすぐに錆びてしまいます。そのためメッキや塗装による防錆処理を施す必要があります。
SPCCのメリットデメリット
SPCCはSPHCよりも伸びがよく、高い加工性を持っています。またSPHCに比べるとコストは上がるものの、ステンレスなどの鋼板と比較すると、安価で入手しやすい素材です。しかし、SPCCは非常に酸化しやすい素材なので取り扱いにも注意が必要です。SPC材は錆びやすいということから長期の保管は難しいので入荷したらすぐに加工して塗装やメッキなどの表面処理を行う必要があります。
メリット | デメリット |
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加工事例
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