マグネシウム合金は、マグネシウムを主成分とする合金のことで、エレクトロン、ダウメタルとも呼ばれています。鉄などの「重い」金属が利用されていた多くの分野で、部品をマグネシウムに置き換えて軽量化することにより、省エネルギーや事故防止、使用感や安全性の向上などが可能になりました。プラスチックと比べてリサイクルしやすいというメリットもあります。また、マグネシウム合金は実用金属の中で最も軽量で比強度が最大の合金です。材料のマグネシウムも地球上に豊富に存在し、入手しやすいことから様々な分野で注目を浴びています。軽い金属の代表であるアルミよりも軽い金属です。近年、省力化や軽量化を目的にマグネシウム合金が注目を集めています。しかし、マグネシウム合金の切削加工には火災などのリスクがあり、激しく燃焼する性質があるため(引火すると高温で燃え、燃焼時に水をかけると爆発する危険性がある)、切削加工には厳重な火災防止対策が行われた環境が必要です。その為加工業者が限られているのが課題です。
マグネシウム合金の特徴
軽量ながら強度や剛性に優れる
実用金属の中で「最も」軽量で、比強度が最大
マグネシウム合金は、実用金属の中で一番軽い素材で、地球上においては6番目に豊富な金属です。軽くて入手しやすいため、その利用可能性は金属の中でもトップクラスです。マグネシウム(Mg)の比重は.74g/cm³で、チタン(4.51g/cm³)の約2/5、鉄の1/4、アルミニウムの2/3と小さく、実用金属の中では最も軽量です。比剛性・比強度がアルミニウム合金や鉄よりも優れており、軽くて強い優秀な金属です。軽さと強度を両立できる点から、スマートフォンやノートパソコンのようなモバイル端末の軽量化にも大きく貢献しています。今まで鉄などの重い金属が使われていた多業界で、軽量化により使用感や安全性の向上、事故の防止やエネルギー削減など、様々な領域での進化に貢献しています。
耐くぼみ性を持つ
マグネシウム合金は、加工硬化率が高い性質を持ち、耐くぼみ性にも優れています。加工硬化とは、金属に力を加えた際に、塑性変形によって硬くなる現象です。そのため、物体が衝突してできるくぼみは、アルミニウム合金などに比べて小さくなります。この性質を活かしてデジタルカメラや携帯電話などの小型家電にも使用されています。
振動吸収性が高い
振動吸収性とは材料が振動を受けた際にその振動を吸収、または外部へ放出させる性質のことを言います。マグネシウム合金は特にその性質に優れ、実用金属の中で最も高い振動吸収性(減衰性能)を持っています。マグネシウムは純度が高いほど、振動吸収性が大きくなります。 振動を吸収できるという性質から、ハードディスクや自動車のホイールなど、回転により生まれる振動を減らしたい部分に使用されます。
安定した電磁波シールド性(電磁波の遮断性が高い)
電磁波とは電波や磁場から起こる波動のことで、光や放射線も、電磁波の一種です。これらの波動を長時間浴び続けることによる、体の不調や機械の不具合を防止するために、電磁波シールドが使われています。マグネシウム合金はこの電磁波の遮断性にも優れていて、マグネシウム合金は30~200MHzの域で、90~110dBの安定したシールド効果を発揮します。
寸法の変化が少ない
マグネシウム合金の特徴として、「比熱が小さい」「熱しやすく、冷めやすい」ということが挙げられます。比熱とは、物質1g の温度を1K上昇させるのに必要な熱量のことです。加えて、マグネシウム合金は寸法安定性にも優れており、150℃で100時間過熱した場合でも、変化量は6*10^(-6)と小さい特徴があります。
また、100℃以下ではほとんど変化しません。比熱が小さく放熱性に優れていて、熱しやすく冷めやすい点も特徴です。また、寸法安定性に優れているという性質もあります。150℃に加熱した状態で100時間経過しても寸法の変化量は小さく、100℃以下ならほとんど変化しません。
優れた切削性
マグネシウム合金は鉄やアルミニウム合金などに比べ切削抵抗が小さく、加工しやすい金属です。それによって機械で加工する時間が短くなり、工具の寿命も長持ちします。
所要切削動力指数(素材を削るために、工具が必要とする力を数値化したもの)を比較する
- マグネシウム合金:1.0
- アルミニウム合金:1.8
- 銅:6.3
マグネシウム合金はアルミニウム合金よりも少ない力で削ることができます。
リサイクルできる
マグネシウム合金は、ダイカスト製品に使われており、不良品や切削屑などが出てきます。その為、加工途中で発生するスクラップのリサイクルが不可欠になってきます。マグネシウム合金はアルミニウム合金と同様に低温で溶解するため、新塊製造時のわずか4%のエネルギーでリサイクルして再利用できます。
マグネシウム合金の欠点
燃えやすい
マグネシウムは発火しやすいという特徴があり、特に細かい状態だと簡単に燃えてしまいます。着火すると激しく燃焼する性質を持っており、加熱された状態で水と接触すると可燃性ガス等が発生する可能性がある金属なので、通常の消化活動が困難です。また、燃えているマグネシウムに水をかけると、激しく燃焼したり水素爆発を起こしたりする危険性もあります。火の気や高温物、水と接触することがないようにし、換気と切り粉の清掃をこまめにするなどの厳重な出火防止対策が必要です。このような性質によりマグネシウムは難削材に分類されており、取り扱いには十分な注意が必要です。
耐食性が低い
マグネシウムは腐食しやすいのも欠点のひとつです。塩分や不燃性のガスがある環境下では急激に腐食が進みます。そのため、防錆を目的とした表面処理が欠かせません。
成型加工が難しい
加工硬化率が高く耐くぼみ性に優れているという特徴を持つ一方で、割れやすくプレスや鋳造、鍛造といった成型加工は難しいという側面も持ちます。
マグネシウム合金の種類
マグネシウムは、そのままだと腐食しやすいという欠点があるため、元素を添加して特性を変化させたマグネシウム合金を使用するのが一般的です。 マグネシウム合金は加える元素によって異なる性質を発揮し、元素の組み合わせによって系列分けされています。Mg-Alの合金の場合AM系、Mg-Al-Znの合金はAZ系、Mg-Zn-Zrの合金はZK系など、対応する元素記号との組み合わせで表す米国材料試験協会の表記方法が普及しています。添加する元素ごとに、Alは強度向上、Znは鋳造性向上、Mnは耐食性向上、Agは耐熱強度上昇などの異なる性質を持たせることが可能です。 また、添加する元素の種類に応じて、鋳造用合金と展伸用合金に大きく分けられます。
マグネシウム合金の用途
マグネシウム合金は、実用金属の中で最も軽量で、比強度に優れた金属です。軽く、強度に優れる、加工性が高い、振動吸収性に優れる、リサイクルが可能な点など、多くの特性を備えているマグネシウム合金は、日常の幅広い場所で使用されています。マグネシウム合金の製品用途例は、自動車のステアリングホイール・エンジンブロック、航空機部品、ノートパソコン・携帯電話・一眼レフカメラの電子機器部品、杖・車椅子などの福祉用品があります。多くの場合が軽量化を目的としています。他の金属を使用するよりも軽量化が図れることから、使用用途は年を追うごとに増えています。また、耐くぼみ性や振動吸収性にも優れており、小型家電のボディ部分や揺れが悪影響となるハードディスクなどにも使われています。
マグネシウム合金を切削加工する際の注意点
マグネシウム合金は軽量で強度もあり、精製が容易でリサイクル性も高いことから、さまざまな分野で使われている素材です。切削性も高いですが、火災や爆発などの事故につながる危険を伴うものでもあります。マグネシウム合金の加工は、切削油の選定や切り屑処理などの注意事項、安全な作業手順を踏まえたうえで行うことが重要です。
切削油には鉱物油を用いる
マグネシウムの切削加工で注意しなければならないのは、マグネシウムの持つ燃焼性です。
・大気中の窒素と反応し、窒化マグネシウムを形成する。窒化マグネシウムは、水と激しく反応し高温を発生する
・燃焼中のマグネシウムが水に触れると、水が分解され水素と酸素を発生する
・高温水や塩化物を含む水溶液中で水と反応し、水素を出しながら水酸化マグネシウムを形成する
これらの化学反応から、マグネシウム合金の切削加工に一般切削用の水溶性切削油を使用は避ける必要があります。水溶性切削油の水分とマグネシウムの切り屑が触れることで、火災や爆発事故が発生する恐れがあるためです。事故防止のために、マグネシウムの切削の際は一般切削用の水溶性切削油ではなく、鉱物油系かマグネシウム切削用の切削油を使用しなければなりません。
切り屑を出さない、残さないようにする
マグネシウムの切り屑は、空気中の酸素や水分とも反応する可能性があります。送りや切込みを小さくしない、切れ刃を被削材に食い込ませたまま送りを停止するのは避ける、微細な切り屑が出ない切削条件を設定するなど、薄い切り屑や微粉をできるだけ出さない加工を行う必要があります。また、排出された切り屑を工作機械の周囲に放置せず除去し、金属製の容器に入れて離れた場所に移動するなど、ルールと環境の整備も必須です。
専用の消火剤を用意しておく
マグネシウムが発火した場合は、前述のように爆発や再燃焼の恐れがあるため、水の使用は基本的には厳禁です。通常のガス消火器や液体消火器なども、消火剤が高温で水を発生するため使用できません。万が一の事態に備えて、マグネシウム用に乾燥砂やフラックス、パーライト、金属火災用消火剤など、専用の消火剤を用意しておくことが大切です。
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